夏はクマノミ

ツッカケ引っかけ チヌ追っかけ

*

またまた

      2015/09/06

浮気してしまいました。
浮気相手は、昨日買った古本、『ぼくの「星の王子さま」へ』。
先日、中央社会保険医療協議会(中医協)の委員に、患者代表として初めて承認された高校の理科の先生、勝村久司さんが書かれた本です。
内容は、陣痛促進剤を知らぬ間に投与され医療事故に遭われた妊婦さん(勝村さんの奥さん)が原告になった医療訴訟と、それに付随する病院と厚生省(当時)の対応について。
妊婦さんの(人為的に起こされた)気が狂うほどの悲しみ・苦しみと、それを、自分で引き起こしていながら放置している医師と助産婦などの実態が詳細に記されています。

読んでいて、独身の私でさえ、ときどき喉が詰まるような悲しい気持ちになりました。
出産予定日より相当早く入院させられるまで、健康そのもの、順調そのものだった母子。
それに対し、自分たちの都合で陣痛促進剤を黙って投与しておきながら、激痛に苦しむ妊婦に対して「辛抱が足りない」とあざけり、裁判では「妊婦のほうが(不眠のため)錯乱状態だった」などと平気で嘘を並べ立てる病院側。
資料をろくに検証もせず、どっちつかずの鑑定をする鑑定医。
もう、この国の医療はどうなっているんだ! と叫ばずにはいられないような心境になりました。

勝村さんの訴えは、医療にとどまらず、司法・行政、そして教育の面にまで及びます。

3年で異動する裁判官。
結審直前に裁判官が3人とも代わってしまうことの異常さは、この本を読んで初めて知りました。
もちろん、裁判官個人が悪いのではなく、司法制度の無理・矛盾から来ているものです。
行政はもっとひどいです。
説明と合意(インフォームド・コンセント)が言われて久しいのに、当時(91年ころ)は自分が受けた医療の実態(レセプト)さえ、「厚生省の指導」という理由で見せてもらえなかった。
話は少し変わりますが、いま、政府は自由診療という制度を広げようと躍起になっています。
保険に縛られず、患者が自ら望む医療を自分で選択して受けられるようにするもの、というのが趣旨ですが、
では、望めばどんな医療でも受けられるのでしょうか?
そんなはずはありません。
自分の病気と、必要な治療と、その治療にかかる費用と、支払い能力と、それらを正確に測れる患者がいるでしょうか?
また、測れたからといって、そのとおり実践してよいものでしょうか?
さらに、高度な医療にどれほどのお金が必要か、その点はまったく考慮されていません。
国外での心臓移植など、高度医療を受けるためにカンパを募っているハナシ、皆さんも耳にはさんだことがないでしょうか?
自由診療の中身は、腹痛、風邪など、軽微な病気ひとつにしても(軽微なほど)、今まで以上にお金がかかるようになるしくみなんです。
こんな状況で「自由」などといわれても、患者に与えられるのは「医療を受けない自由」、ひいては「死ぬ自由」だけです。
生き延び、生き残る自由を手にできるのは、ごく一部の金持ちだけ。
これが実態でしょう。

勝村さんの訴えは、教育にものびて行きます。
「いじめにたいして、『いじめを行わないよう』という教育は行われるが、『いじめを受けたときどうするか?』という教育は実践されていない。被害者が救われる制度の確立が必要だ」。
医療の現場もそうなんです。
「医療事故を起こさないように」という指導は、厚生労働省などが行っていますが、「医療事故に遭った場合に、どう対処すればよいか」という指導は、誰もしていないし、誰も受けていない。

いくつかの点で勝村さんの運動は芽を出し始めています。
厚生労働省が、レセプトの開示を指導したことや、事故の現場になった病院で研修制度が定着したことなどです。

この本で紹介されていることですが、皮肉にも、というべきでしょうか、保険診療の制度が無視されているアメリカで、ひとつの理想像が報告されています。
7歳の少年が、簡単なはずの手術で命を失いました。
病院側は、患者さんのご家族とすべてを共有しながら、それをなくすためにさまざまなことをされました。
患者さんの家族も、二度と同じような事故が起こらないように、この事故を広く世間に知らせる運動をしました。
病院側の誠意ある対応に、市民も非難するのではなく称賛しました。
そして、病院で、勝村さんの例と同じような研修会が開かれました。
そこで、家族が言った「ひとつのお願い」。
緊張して聞く病院に対し、発せられた言葉は、
「またこの病院にかからせていただきたいんですが」。
目頭が熱くなる思いでした。

      

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